
監修者紹介

- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
東京メモリアルクリニック理事長
さとう美容クリニック院長,日本形成外科学会員,日本再生医療学会会員、日本臨床毛髪学会アドバイザリー,日本先進医師会特定認定再生医療委員会委員長
頭髪に関する内科治療と外科治療まで幅広く実践し、毛髪研究、教育も積極的に行っている。
テストステロンは筋肉や骨格などの男性的な特徴に関係するだけではなく、精神や集中力・記憶力など心身にさまざまな影響を及ぼします。また性別によって分泌量や与える影響が異なるのもポイントです。
男性らしい顔つきやたくましい体つきに大きく影響することもあり、テストステロンが多い人・少ない人の特徴や増やす方法を知りたい男性は多いのではないでしょうか。
この記事ではテストステロンが多い人の特徴やテストステロンを増やす方法などをご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
テストステロンとは男性らしさに必要なホルモン

(出典:(1)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
(出典:(2)哺乳類における11-ケトテストステロン産生と機能)
テストステロンは性腺 (精巣) や全身の臓器を中心に、生理的な役割を担っている男性ホルモンです。テストステロンの約95%は精巣、約5%は副腎で作られ、おもに生殖腺や副腎で合成されて分泌後にさまざまな酵素によって分解されます。
テストステロンが影響を及ぼす範囲は、筋肉・骨・皮膚・中枢神経系・性機能・前立腺・骨髄などです。髪の毛の育成にも作用しています。
体内のテストステロンは加齢によって減少します。また1日の中でも変動しており、血中のテストステロン量が高値になる午前中と低値になる深夜では、2倍近い差があるのがポイントです。
テストステロンによる効果|顔つきは変わる?

テストステロンに増加による顔つきの変化・特徴
(出典:(3)顔の魅力研究の現在 : 普遍性と個人差に対する進化心理学的アプローチ)
テストステロンには人の顔つきを変化させる作用が確認されており、男性の場合はテストステロンの増加によって以下の特徴的な変化が見られます。
- 鼻や頬骨が高くなる
- 眉のあたりが隆起する
- 眉が隆起することで相対的に目が細くなる
- 下あごが肥大する
思春期以降はテストステロンの分泌がとくに活発になるため、上記のような顔つきの変化が見られやすいでしょう。眉や頬、鼻が隆起することで顔全体の彫りが深くなり、男性らしい印象を与えます。
なおテストステロンの分泌量には個人差があるため、顔つきの変化の度合いにも違いが生じます。
筋肉量の増加・脂肪がつきにくくなる
(出典:(4)日本人筋肉量の加齢による特徴)
(出典:(5)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
テストステロンの量は筋肉量と大きな関係があります。
体のすべての部位において、男性の筋肉量は女性よりも多いです。理由のひとつとして、蛋白 (たんぱく) 同化作用を持ち、筋肉量の発育を促すテストステロンの影響が挙げられます。
なお男性の場合、テストステロンは加齢によって減少し、それに伴って筋肉量も減少すると考えられています。加齢による筋肉量の変化は、女性よりも男性の方が大きいです。さらに筋肉量の変化は部位ごとに異なり、とくに下肢の筋肉量は早期から大きく減少します。
またテストステロンが増えることで脂肪がつきにくくなります。テストステロンには内臓脂肪や皮下脂肪を現象させる作用が確認されているためです。
性機能の向上
(出典:(6)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
(出典:(7)性と心身医学 : 男性の側面から)
テストステロンには性機能を向上させるはたらきがあります。テストステロンの性機能に関する主な作用は以下のとおりです。
- 陰茎の発達
- 造精機能の発達
- 性欲の維持
- 射精・勃起を促す
男性の体において正常な性機能を保つためにはテストステロンが欠かせません。加齢をはじめとする要因によりテストステロンの血中量が低下すると、前述の性機能は低下します。
またテストステロンの性機能への影響は、機能面だけでなく精神面にも及びます。抑うつ感や不安感の増加は、テストステロンの低下によって起こる精神面の変化のひとつです。これらの状態は勃起障害の心理的要因になることがあります。
集中力・記憶力の向上
(出典:(8)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
テストステロンは集中力や記憶力にも影響を与えます。
テストステロンおよびテストステロンから変換されるジヒドロテストステロンは記憶をつかさどる脳の海馬でも合成され、神経シナプスの結びつきを一時的に強くする作用があるためです。またテストステロンが低下すると記憶力だけでなく、集中力も下がってしまうことがわかっています。
つまりテストステロンは集中力や記憶力の維持・向上に重要なホルモンであるといえるでしょう。
前向きになる
(出典:(9)健康長寿医学としての男性医学)
(出典:(10)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
テストステロンには人を前向きにする作用もあります。テストステロンが脳にはたらきかけることで、性格や行動に変化があらわれます。
テストステロンが増えることで以下のような気持ちや考え方が生まれるでしょう。
- 積極的に物事に取り組む冒険心
- 意欲的な考え方
- 挑戦する姿勢
脳のなかでやる気や積極性をつかさどるのは、偏桃体や側坐核です。テストステロンはこれらの器官を活性化させます。
またテストステロンの脳への影響には攻撃性の維持もあります。テストステロンの増加によって当人の思考だけでなく、他者との関わり方や社会性にも影響が及ぶことがあると考えられるでしょう。
生活習慣病リスクの予防
(出典:(11)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
テストステロンは生活習慣病リスクの予防にも役立つと考えられています。国内外の研究ではテストステロンの量が、糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病と負の相関関係にあることが判明しているためです。
テストステロン値が低いと血糖値を調節するインスリンの分泌や脂肪の分解に悪影響があります。また肥満がテストステロン値を低下させる一方で、テストステロン値が低い状態も肥満になりやすい、双方向の関係にあります。
男性不妊症の分野ではテストステロン値と生活習慣病に関連性があることは周知の事実です。そのためアメリカの男性不妊に関するガイドラインでは、診断の際に生活習慣病についての調査も推奨されています。
テストステロンが少ないと起こる不調

精神状態が不安定になりやすい
(出典:(12)男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群))
(出典:(13)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
テストステロンが少なくなると、ささいなことでイライラしたり、不安・パニックになったりしやすいです。うつ病などの精神的な症状や不眠などの睡眠障害を引き起こす恐れもあります。
これらの精神的な症状は、上記の身体的な症状と同じく男性更年期障害 (LOH症候群、加齢性腺機能低下症) によるものです。
性機能が低下する
(出典:(14)男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群))
(出典:(15)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
(出典:(16)更年期障害)
テストステロンが少ない人は、性機能が低下する恐れもあります。たとえば勃起不全 (ED) や性欲 (リビドー) 低下などです。
男性はテストステロンの分泌量が穏やかに減少するので、更年期障害が起こっていると気づかない場合が多いです。そのため発症する前に更年期障害に関する知識を深めておきましょう。
筋力低下によって内臓脂肪が増加する
(出典:(17)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
高齢になり血中のテストステロン濃度が低下すると、筋力が低下している状態であるフレイルやサルコペニアなどのリスクが高まります。反対に血中のテストステロン濃度が高いと、フレイルが悪化するリスクが減少することもわかっています。つまり血中のテストステロン濃度低下と筋力低下のリスクには関連性があるといえるでしょう。
またテストステロンは脂肪の分解とも関わりがあり、低下することで内臓脂肪の増加につながり、メタボリックシンドロームのリスクが上昇します。
さらにテストステロンの低下はインスリンの正常な分泌にも影響を与え、結果として糖尿病になるリスクが高まります。
集中力・記憶力の低下
(出典:(18)男性の性腺機能低下症ガイドライン2022)
ある研究では記憶をつかさどる海馬内のテストステロン減少の影響で、神経シナプスの結びつきが弱くなり記憶力低下を招くことが示唆されています。
テストステロン低下に限った症状ではありませんが、起こりうる症状のひとつとして集中力低下も挙げられています。
男性更年期障害には注意
(出典:(19)男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群))
テストステロンの減少により男性更年期障害になる可能性があるので注意しましょう。男性の更年期障害は以下のような症状があります。
- 疲れやすさ
- 発汗、ほてり
- 筋肉痛や関節の痛み
- 不安感、イライラ
- 不眠
- 意欲の低下
女性の更年期障害が閉経前後の45歳~55歳くらいで起こるのに対し、男性の更年期障害は40歳以降いつでも起こりうるとされています。
また女性の更年期障害は閉経してから数年で落ち着きますが、男性の更年期障害に終わりはありません。テストステロンをはじめとする男性ホルモンの値が低い場合は、投薬治療を行うこともあります。
テストステロンを増やす方法

トレーニングやレジスタンス運動をする
(出典:(20)女子体育大学生へのスポーツ理学療法)
(出典:(21)性ホルモンと骨格筋)
(出典:(22)レジスタンス運動)
トレーニングやレジスタンス運動をすると、血中のテストステロンの量が増えます。レジスタンス運動とは、スクワットや腕立て伏せなど筋肉に抵抗をかける動きを繰り返し行うことです。
とくに男性は血中のテストステロンの量が増えやすく、それにより筋蛋白合成が高まり、筋量がアップします。テストステロンを増やしたいなら、すぐにでも始められるトレーニングやレジスタンス運動から試してみてください。
トレーニングによる血中のテストステロンの増加には性差があります。女性は男性に比べてテストステロン量が増加しにくく、筋量もあまり変化しません。
テストステロン補充療法 (TRT)を行う
(出典:(23)日本人成人男子の総テストステロン,遊 離テストステロンの基準値の設定)
(出典:(24)LUTSとテストステロン)
(出典:(25)テストステロン長期補充療法の安全性に関する検討)
テストステロン値の低下によって更年期障害や内分泌性性機能障害を発症している男性では、テストステロン補充療法 (TRT) が適用になるケースがあります。
テストステロン補充療法を受けることで、高齢男性におけるメタボリック症候群・耐糖能低下・骨粗霧症・認知症を予防し、QOL (生活の質) の維持に役立つと期待されています。
ただしテストステロン補充療法は、血中のテストステロン値が低い場合に適用となる治療法です。テストステロン値の低下を防ぐためには、別の方法を考える必要があります。
十分な睡眠をとる
(出典:(26)男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群))
(出典:(27)Effect of 1 Week of Sleep Restriction on Testosterone Levels in Young Healthy MenFREE)
十分な睡眠をとることもテストステロンの量を保つためには大切です。睡眠不足は男性ホルモンの分泌に悪影響を及ぼすとされています。
睡眠時間を制限してテストステロン値の変化を観察した実験では、テストステロンが減少したという結果も報告されています。特に睡眠不足の人は日々十分な睡眠をとることが、テストステロン量の維持や向上につながるといえるでしょう。
タンパク質・良質な脂質を取り入れた食生活
(出典:(28)男性の性腺機能低下症ガイドライン 2022)
(出典:(29)Diet and sex hormone-binding globulin)
(出典:(30)13.男性更年期障害(LOH症候群)
(出典:(31)Diet and serum sex hormones in healthy men)
タンパク質や良質な脂質を取り入れた食生活も重要です。
テストステロンには3つの型があり、SHBG結合型と呼ばれるテストステロンは体内の機能や活動に影響を与えません。タンパク質の摂取量が下がることでSHBG結合型が増えるため、テストステロンのはたらきが弱まることがわかっています。
またテストステロンはコレステロールから産出されます。食事で摂る脂質が減るとテストステロンの血中濃度が下がるので、良質な脂質を適度に摂取することは大切だといえるでしょう。
テストステロンが多いと薄毛になる?

(出典:(32)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版)
テストステロンが多いと必ず薄毛になるわけではありません。しかしテストステロンが頭髪の毛根にある受容体と結びつくことで、男性型脱毛症につながることがあります。
男性ホルモンと薄毛の関係については以下の記事で詳しく解説しています。
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テストステロンで顔つきは変わる?よくある質問

テストステロンが多いとモテますか?
(出典:(33)顔の魅力研究の現在 : 普遍性と個人差に対する進化心理学的アプローチ)
テストステロンが多いと彫りが深く男性的な印象を与える顔つきになります。
ただし男性的な顔つきが必ずしもモテるわけではありません。文化や環境要因に加えて個人の嗜好によって、男性的な顔つきとそうでない顔つきどちらが好まれるかが変わります。
テストステロンが少ないと顔つきはどうなりますか?
(出典:(34)顔の魅力研究の現在 : 普遍性と個人差に対する進化心理学的アプローチ)
テストステロンが少ないと鼻や頬骨の隆起が低く、やわらかい顔つきになるでしょう。
眉もあまり隆起せず対照的に目が大きく見える可能性があります。下あごの発達も少なく比較的ほっそりとしたフェイスラインになることもあるでしょう。
まとめ
テストステロンは筋肉や骨などの成長に関与し、性機能から精神面まで人の体に広く影響するホルモンです。
テストステロン量が多い男性は筋肉質で骨格も発達している傾向があります。また活発で生き生きとした言動が目立つこともあるでしょう。反対にテストステロン量が低下すると男性更年期障害や生活習慣病などさまざまな健康リスクが生じます。
運動習慣や食生活を変えることでテストステロン量の維持や向上が期待できます。今回紹介した内容を参考にして、男性ホルモンの観点からQOL向上や健康維持を目指してみてはいかがでしょうか。
文献
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32).日本皮膚科学会雑誌/127 巻 (2017) 13 号p. 2763-2777
監修者紹介

- 佐藤明男
- 東京メモリアルクリニック理事長
■ プロフィール
1957年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。
1998年、厚生省(当時) 高度先進医療推進事業でオックスフォード大学医学部客員研究員として英国に国費留学し、帰国後、東京メモリアルクリニック・平山副院長を経て院長に就任。医療法人TMC理事長を兼任。これまで10,000人を超えるAGA(男性型脱毛症)患者を治療してきた実績を持つ、頭髪治療の第一人者。
■論文・出版情報
2007年 『医療的育毛革命』
2009年 『なぜグリーン車にはハゲが多いのか』













